ストーリー
明庭出身の名門の令嬢であり、昭明商会の若き理事。水扇を糸とし、商いの道を錦として織り上げる。手に刀剣を取らずとも、人の世の太平を織り成すことができる。
「共鳴能力測定報告 RA1034-G」 被験者の音痕は額の中央に位置し、具体的な共鳴現象としては周囲の水と共振でき、水域内における流れの軌跡や位置エネルギーの分布を感知でき、大気中の水気や雨露、渓流などを集めて、制御下の水域を形成できる。激しい豪雨を小雨へと変え、荒れ狂う奔流をも静かな流れへと導くことができる。 その共鳴周波数は高い一貫性を示しており、共鳴力を発動すると水扇と水袖は流れるように舞い、波たゆたう山河の景観を織り成す。それはまるで千里に及ぶ画巻を現実へと引き寄せたかのようである。 被験サンプルのラベル曲線は緩やかな上昇傾向を示し、最終的に滑らかな高値域の波動へと収束している。検査結果は自然型共鳴者と判断される。 <i>「ほとんど乱れや断層は見られず、周波数全体も終始緩やかで安定している……ふむ、被験者本人の気質によく一致していますね。」――華胥研究院の医師との談話より抜粋</i>
穂穂が幼い頃から好んで集めている美しい装飾品。色鮮やかに染められた羽根も、きらきらと輝く玉も、すべて自分の小さな箱へ大切にしまい込んでいた。年月が経つにつれ、箱の中の宝物は少しずつ増えていき、穂穂はそれらを使って秧秧を飾り立てるのを何よりの楽しみにしていた。 箱の中でいちばんのお気に入りといえば、やはり両親から贈られた碧玉の佩玉だろう。水のようにしっとりとした碧色の玉は、翼を広げた飛鳥の姿に彫られており、今にも空へ飛び立ちそうに見える。「碧玉を身に佩き、心は大空を目指す。重明鳥のごとく羽ばたき、澄んだ目で己の道を見失わぬように」
この扇子は、夢州の名工によって作られたものだ。扇面には細やかな碧糸と金糸で山河の景色が刺繍されている――遠山は黛のように霞み、近くの水辺には薄く靄がたなびく。数匹の錦鯉が水草の間を悠々と泳ぎ、その眺めは実に美しい。穂穂が初めて商会を任された年、商会は一度、すべてが覆りかねない大きな危機に見舞われた。競合する商会は手を組んで圧力をかけ、盟友たちも次々と離れていく。穂穂は三日三晩書斎に籠もり、敗北を認める契約書に署名しかけるほど追い詰められていた。 だが四日目の朝、気分を変えようと窓を開けたとき、ふと机の上に置かれたこの古い扇子が目に入った。それは、彼女が商いの世界に足を踏み入れたばかりの頃、初めて稼いだ金で買った品だった。 「――この山河を、この手に収めてみせるわ」かつてそう胸に誓ったことを思い出し、穂穂は扇子を握って共鳴力を流し込んだ。すると扇面の水紋がゆるやかに揺れ始める。それを見つめるうちに、絡まり合っていた思考も少しずつ静まっていった。 結局、その危機を穂穂は乗り越えた。それ以来、この扇子は常に彼女の傍らにある。扇面に広がる波濤、空を舞う鳥、水を泳ぐ魚。その景色を眺めるたび、穂穂は自分の愛する太平の世を見ているような気持ちになるのだった。
穂穂が12歳の頃、秧秧と一緒に桃の花の汁で二帖の詩箋を染め上げたことがある。穂穂は筆を握り、詩箋の隅に寄り添う二羽の小鳥を一生懸命描いた――右が自分、左が妹だ。 その後、秧秧は今州へ渡り、踏白となった。一方の穂穂は変わらず各地を巡って商いを続けている。二人はときおり手紙を送り合い、穂穂は妹から届く手紙を一通一通丁寧に畳んで、その姉妹箋に挟んでいた。 それから幾年もの月日が流れた。あの詩箋はとうに使い切ってしまったが、最後の一枚だけはどうしても使う気になれず、今も書斎の机に大切にしまわれている。隅に描かれた二羽の小鳥はすでに少し色褪せているが、何度も指先でなぞられてきたせいか、どこか以前よりも柔らかく見えた。妹の手紙を取り出して読むたびに、穂穂は思う。たとえ千里を隔てていても、あの拙い筆致で描かれた二羽の小鳥だけは、いつまでも寄り添ったままなのだと。


